陰唇を解放してコンプレックスフリーに！　女性器は「小さい割れ目」から多様性の時代へ

ロンドンにある「心理的性の健康センター」の創設者であり理事のカビー・ラフィは、これは新しい問題ではないと話す。フェミニスト系セックス研究者の故シェア・ハイトが、かなり前に指摘していたと言うのだ。

「幼い女の子が自分の性器を見下ろすと、『ついてないね』と言われるのです。男の子のは外についてて、女の子のは中にあるんだよ、とね」と、ラフィは説明する。これは、最も基本的なレベルで女性の外陰部をさす言葉に混乱があることの表れだ。「外陰部」（ヴァルヴァ）のことを「膣」（ヴァギナ）と言っている人がとても多いのだ。

「外に出ている女性器の名称がないんです」とラフィは続ける。

「この名無し状態が恥の一部、嫌悪の一部なのです」

女性の肉体の見方に関してもっと幅広い範囲で懸念しているのが、心理療法士のジュリア・ブエノだ。我々の文化では「女性の身体はすべすべで、コントロールのきいた、見目麗しいものである」との観念が根強い。

「排泄や母乳といった、コントロールのきかない女性の肉体」という現実は「うしろめたくて、忌避される」ものになり、この文化的嫌悪が内面化されるのだと、彼女は説明する。

「私のカウンセリングにくる女性たちが、性感染症について婉曲表現を用いたり、『説明しすぎでしたらすみません』などと言ったりすることは、非常によくあります。セラピストが相手でも、自分の身体の話をするのにためらいがある。助産師なのに『下のほう』と言ったり、不妊クリニックの看護師なのに婉曲表現を使ったりする人たちもいましたよ」

たしかに外陰部は、たとえば胸などの部位よりもハードルが高い。名無しのせいで生じる欠落の代わりに、陰唇嫌悪の用語（「肉ひだ」とか「ビラビラした変なやつ」）が使われ、嫌悪されて当然という意識が強化される。ラフィはこう話す。

「性は自然なものであり、そうなっているもの、自分の関与外のものだ、というのが私たちの考えです。それが恥の克服につながるのです」

さらに、女性らしさをめぐる相反する期待もある。その代表例が、「聖女」と「売春婦」だろう。これは、「女性は性行為や性的誘惑者を歓迎しない門番のようなものであれ」という性モラルにまつわるものだと私もずっと思っていた。

ところが、さらにうんざりする話も別にある。女性はセクシーであるべきだと考えられ、同時に母乳を与え、ヴァギナで人間を生み出すべきだとも思われている。「セクシー」とは対極だ。

私たち女性は、自分にある一つの器官を異なる2つの目的に使わなくてはならないのに、世間はこの器官を「見えないもの」とするのが一番だと思っているわけだ。

芸術家ジェイミー・マッカートニーは2011年に「The Great Wall of Vagina」（400体の陰部石膏像）をプロデュースした。プロジェクト開始から5年後のことだ。彼は、ある性博物館から男女の生殖器をかたどったアート作品を依頼された経験に触発されたのだ（彼は自分が作った石膏像はヴァルヴァ「外陰部」であってヴァギナ「膣」ではないのはわかっているが、言葉遊びはうまく機能しないものだ）。マッカートニーはこう語る。

「型取りをしているあいだ、自分の外陰部、とくに陰唇にコンプレックスを持っている女性がごまんといると知りました。彼女たちは他人の型を見てこう言うのです。『これはすごくきれい』とか『私のもこんなだったらいいのに』とか。信じられませんでした。こっちのはちゃんとしてて、あっちのはダメ、という意味が僕にはまったく理解できなかったのです」

彼が言うように、比較をするには「ポルノと医学の教科書」しかない。「僕の作品はそれを補完したんです」とマッカートニーは説明する。

「石膏像ですから、写真ができないこともできてしまう。写真だと、どうしてもポルノのように見えてしまいます。結果的に、これは事実上の外陰部ライブラリーになったわけです」

ソーシャルメディアでは、フェミニストが手掛ける視覚表象の概念芸術であっても、大半は猥褻物もしくは「公衆」ガイドラインのせいではねられてしまう。このガイドライン違反にならないよう、ティックトッカーたちもよく自主規制をする、とリーは言う。

「自分にとっては大半が無意味なんですけどね。友人たちは医学の図解をティックトックにあげて、削除されたんですよ」

ウィリアムズの経験も似たようなものだ。

「ヴァギナ・ミュージアムは（タンポンのブランドの）『カラリー』とコラボして、外陰部のリアルな絵を数種類手がけたんです。みんな違ってみんないい、とね。それをインスタグラムに載せたら、あっという間にはねられました」

以後、その投稿は復元された。だが、アルゴリズムは性器の画像に出くわしたとき、解放を主唱するフェミニストによるものか、ポルノ制作者によるものなのかを区別することができない。

このように否定的な自己イメージを持つことで、どんな影響があるのだろう。ラフィは「セックスから得るものが少なくなる」と指摘する。

「もしあなたが、食べ物に対して恥ずかしく思ったり、問題を抱えていたりしていたら、食事が楽しいとは思えないですよね」

カウンセリングで、彼女は患者に宿題を課す。

「お風呂で裸のまま、鏡に自分の性器を映して見て、完璧だ、これこそ典型的なものだと自己暗示するという、簡単なことです。私たちの仕事の多くは、あなた自身をセクシーに見せる方法ではなく、自身をセクシーだと思えるようにする方法を伝授することなんです」

ラフィは、患者が前向きな変化を遂げた事例をたくさん見てきた。

「20年前に私がこれを説いていたとき、何のことを言っているのか理解されませんでした。今では、若い女性たちは力を得たように感じて、自分が自分である権利に目覚めたようです。トランスジェンダーやノンバイナリーのような問題は、『自分はユニークな人間である』と考えるほうが正しいという信念を広げたのです」

ティックトッカーのイン・リーは、こう説明する。

「私はバイセクシュアルのノンバイナリーです。それをカミングアウトするのは、とてもハードルが高かった。だから、ほかのことについてざっくばらんに話すのは、すごく簡単だったんです」